生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について

(昭和二九年五月八日)

(社発第三八二号)

(各都道府県知事あて厚生省社会局長通知)

注 昭和五七年一月四日社保第一号による改正現在

生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置については、貴職におかれても遺漏なきを期しておられることと存ずるが、今般その取扱要領並びに手続を左記のとおり整理したので、了知のうえ、その実施に万全を期せられたい。

一 生活保護法(以下単に「法」という。)第一条により、外国人は法の適用対象とならないのであるが、当分の間、生活に困窮する外国人に対しては一般国民に対する生活保護の決定実施の取扱に準じて左の手続により必要と認める保護を行うこと。

但し、保護の申請者又はその世帯員が急迫した状況にあるために、左の各号に規定する手続を履行する暇がない場合には、とりあえず法第十九条第二項或は法第十九条第六項の規定に準じて保護を実施し、しかる後左の手続を行つて差し支えないこと。

() 生活に困窮する外国人で保護を受けようとするものは、外国人登録法により登録した当該生活困窮者の居住地を管轄する保護の実施機関に対し、申請者及び保護を必要とする者の国籍を明記した保護の申請書を提出するとともに有効なる外国人登録証明書を呈示すること。

() 保護の実施機関は前号の申請書の提出及び登録証明書の呈示があつたときには申請書記載内容と登録証明書記載内容とを照合して、申請書記載事項の確認を行うこと。

() 前号の確認が得られた外国人が要保護状態にあると認めた場合には、保護の実施機関はすみやかに、その申請書の写並びに申請者及び保護を必要とする者の外国人登録番号を明記した書面を添えて都道府県知事に報告すること。

() 保護の実施機関より報告をうけた都道府県知事は当該要保護者が、その属する国の代表部若しくは領事館(支部又は支所のある場合にはその支部又は支所)又はそれらの斡旋による団体等から必要な保護又は援護を受けることができないことを確認し、その結果を保護の実施機関に通知すること。

二 生活に困窮する外国人が朝鮮人及び台湾人である場合には前記一(3)及び(4)の手続は、当分の間これを必要としないこと。

三 本通知の運用指針は次の通りであるので、これが取扱について遺憾のないよう配意されたいこと。

問一 通知一(1)に生活に困窮する外国人が保護を受けようとするときは、有効なる外国人登録証明書を呈示しなければならないとあるが、外国人がこの呈示をしない場合若しくは実施機関の行う保護の措置に関する事務に外国人が協力しない場合には如何にすべきか。

()外国人の保護は法を準用して行うのであるから、実施機関としては保護を申請した外国人並びに保護を必要とする外国人について、当然一般国民に対する場合と同じく保護決定に必要な種々の調査をしなければならない。而るに外国人については一般国民の場合と異り、その生活実態、家族構成、稼働状況、収入状況等についての適確な把握が困難であるので申請者若しくは保護を必要とする者の協力を特に必要とする。従つて、申請にもとずく種々の調査の際申請者若しくは保護を必要とする者が実施機関の必要とする協力を行わないため、或は当該外国人の身分関係、居住関係を明確にする有効なる外国人登録証明書を呈示しないために、実施機関が当該外国人についての生活実態の客観的事実が把握できないような場合には、実施機関としては、適正な保護事務の執行ができないので、申請者若しくは保護を必要とする者が急迫な状況にあつて放置することができない場合でない限り、申請却下の措置をとるべきである。一方かかる場合には実施機関は必要とあれば治安当局に連絡し、在留外国人の公正な管理事務に協力すべきである。

問二 外国人が集団で保護を申請してきたときの取扱如何。

()外国人が集団で保護を申請してきたときには、一般国民の集団申請に対する取扱と同様に取り扱うべきであるが、問一の答で明記したように所定の手続を経ない保護の申請、或は多人数の圧迫にもとずく保護の要請等によつて申請者若しくは保護を必要とする者が実施機関の行う保護の措置の事務に協力しない場合には、一切かかる保護の申請には応ずべきではない。

問三 生活に困窮する外国人が保護の申請を、福祉事務所を設置しない町村の長を経由してなした場合、町村長は如何に処理すべきか。

()町村長を経由して提出された申請書については、町村長は法第二十四条第六項の規定を準用して当該申請書及びその他の必要書類を実施機関に送付しなければならないのであるが、その際、保護を必要とする者が外国人であること及び当該外国人の登録番号を明記した書面を添付しなければならない。

問四 生活に困窮する外国人の子弟については、特別の教育というものが考えられるが、これらについては如何に対処すべきか。

()通知によつても明確なとおり、外国人に対する保護の措置は、法に準じて実施することになつているのであるから、生活に困窮する外国人の子弟のみが教育基本法に規定する日本国民の義務教育に準ずる教育以外の特別の教育を受けることを認めることはできない。従つて学校教育法第一条に規定する小学校、中学校以外の各種の学校において受ける教育については教育扶助の適用を認めることはできない。又特定の学校において通学費を必要としながら受ける外国人のための教育については、その通学費及び特定の教育のために必要な教育費を教育扶助の内容として認めることはできない。

問五 通知二において終戦前より国内に在留する朝鮮人、台湾人について特例を設けた理由。

()終戦前より国内に在留する朝鮮人、台湾人は従来日本の国籍を有していたのであり、講和条約の発効によつて始めて日本国籍を喪失したわけである。従つて、講和条約発効前においては日本国民として法の適用を受けていた点、条約発効後においても従来のまま日本に在留する者多く、生活困窮者の人口に対する割合も著しく高い点、或は、種々の外交問題が解決していない以上、外交機関より救済を求めることが現在のところ全く不可能である点等よりして、かかる朝鮮人、台湾人の保護については、一般外国人と同様に複雑な手続を経ることは何らの実益も期待できないので、特にその取扱を一般外国人と異にし、保護の措置に関する手続を簡素化したものである。

問六 法の準用による保護は、国民に対する法の適用による保護と如何なる相違があるか。

()外国人に対する保護は、これを法律上の権利として保障したものではなく、単に一方的な行政措置によつて行つているものである。従つて生活に困窮する外国人は、法を準用した措置により利益を受けるのであるが、権利としてこれらの保護の措置を請求することはできない。日本国民の場合には、法による保護を法律上の権利として保障しているのであるから、保護を受ける権利が侵害された場合にはこれを排除する途(不服申立の制度)が開かれているのであるが、外国人の場合には不服の申立をすることはできないわけである。

なお、保護の内容等については、別段取扱上の差等をつけるべきではない。

問七 無登録の外国人が仮放免された場合には、外国人登録証明書を所持していなくても、保護して差し支えないか。

()無登録の外国人が出入国管理及び難民認定法第五十二条第六項の規定により放免され、又は同法第五十四条第二項の規定により仮放免される場合には、それぞれ所定の許可書が交付され、その交付にあたりただちに居住地の市区町村長に対し外国人登録の申請をすべきむねの注意が与えられるから、登録の申請をしていない者が保護の申請をした場合には、まず登録の手続を行なつたうえ有効な登録証明書の交付を受けてこれを呈示するよう指導すること。ただし、登録の申請をしたが未だ登録証明書の交付を受けていない者については、外国人登録証明書交付予定期間指定書の呈示を求め、所定の手続により保護を実施して差しつかえないこと。この場合、放免又は仮放免中の居住地は指定されているものであるから、この点について前記許可書の呈示を求めて確認すること。

なお、刑の執行を停止された者、仮出獄を許された者等が無登録である場合の取扱いも右と同様であること。

問八 生活に困窮する外国人が入院した場合において、法による取扱に準じて認定した居住地と外国人登録による居住地とが異なるときは、いかにすべきか。

()外国人に対する保護の実施責任は、外国人登録法により登録した居住地により定められるから、設問の場合は、外国人登録による居住地によるべきものである。なお、一般に、次の「参考」からも明らかなように、法にいう居住地と外国人登録法にいう居住地とは、殆どの場合一致するものと解されるので、設問のような場合には一応外国人登録関係機関と連絡し、当該外国人登録が適正であるかどうかを確認したうえ、保護の実施責任を定めるのが適当である。

「参考」

昭和三十二年十二月二十八日法務省管登合第七八九号法務省入国管理局登録課長通知()

一 入院と居住地の関係について

() 外国人登録上、原則として、入院は居住地変更に当らないと解するのを相当とするが、何れが居住地であるかを具体的に認定する場合は、入院のため離れた原居住地の状態が、退院後復帰する形態を残しているか否かを確めなければならない。したがつて、外国人登録法を運用する場合において、

(1) 事実上原居住地を有しない行商人等(登録上は、前回の確認申請をなした市町村に居住地があつたようになつている)が、某地において入院し、外国人登録法上の居住地をその医療施設の所在地に変更登録したい旨の申請をしたときはこれを受理して差し支えない。

(2) 単身者が原居住地を引き払つて入院し、その医療施設の所在地に居住地変更登録をしたい旨の申請をしたときは、これを受理して差し支えない。

(3) 原居住地があつてもその疾病の性質上治癒の見込がないと認められるような癩又は精神病による入院は、その医療施設の所在地を外国人登録法上の居住地とする方が「居住関係」の把握をその目的の一とする外国人登録法の立法趣旨にも適すると考えられる。

(4) 原居住地に家族が居住し、退院後同所に復帰することが予想されるときは、原居住地が外国人登録法上の居住地であるから、医療施設側から「主食の配給籍を移動せよ」と要求された外国人が、同施設の所在地に外国人登録法上の居住地を変更したい旨を申請しても、「外食券」に切替えることを奨めて、居住地変更登録申請は受理しないよう指導されたい。

問九 法による取扱に準じて認定すれば居住地がない場合であつても、外国人登録法においては、居住地があるものとされるが、外国人の保護については、法第七十三条第一号に準じた費用の負担は行われないものであるか。

()保護の実施責任は、外国人登録法により登録された居住地によるから、費用の負担について、法第七十三条第一号に準じた取扱は、あり得ないものである。

問一○ 養護老人ホームに収容された外国人が保護を要する場合、保護の実施責任は老人福祉法による措置の実施責任と一致すると解して差しつかえないか。


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